To be a blue jeans “CLASSIC”.
出自たるワークウェアのタフさを感じる骨太なたたずまいや、穿き込むことでメリハリあるタテ落ちが生じる分厚い生地。いつの時代も褪せない、そんなデニムの魅力がしっかりと詰まった「CLASSIC」は、デニムの進化を掲げるMOMOTARO JEANSの中でも、特に深い味わいが楽しめるシリーズです。オーセンティックなようでいて過去の焼き増しではなく、古き佳き時代の製法を採用しながら進化させた5ポケットジーンズ。それは古典のようであり、現代の最高水準とも言えるもの。“クラシック”の言葉に、偽りはありません。
PHOTOGRAPH : Kousuke Matsuki | Kazumasa Takeuchi(Ye/product)
EDIT & TEXT : Rui Konno
デニムの醍醐味が味わえる、
洗練されたラギッド

ヒゲや膝裏のハチノスといった、穿く人のクセがしっかりと刻まれるヘビーな15.7オンスの右綾生地を使ったモデル。上質なジンバブエコットンを採用し、独自の染料・染色回数によって限りなく深いトーンに仕上げた「特濃-TOKUNO BLUE」の経糸を用いて旧式力織機で織り上げたオリジナルのデニム地は肉厚でも柔らかいのが特徴です。MOMOTARO JEANSが展開しているデニムの中でももっともヴィンテージ感の強いシリーズで、一般的なデニムより経糸の打ち込みを増やした「STANDARD」に対し、「CLASSIC」はあえてオーセンティックな経糸の本数にしています。シルエットはこのストレート以外に、テーパードとスリムがあり、それぞれボタンフライとジッパーフライが選べます。裾を折り返した際に覗くセルビッチが生地の高品質の証です。

生地はMOMOTARO JEANSがこだわり続け、長年使用しているもの。リブランディングに際し、ステッチの色合いや運針数などを見直したことで、表情が刷新。

バックポケットには他のシリーズ同様、隠しリベットが。「CLASSIC」はよりヴィンテージライクな打ち抜きのカッパーリベットを使用している。

ヒップ右側に入る2本線はMOMOTARO JEANSのアイコン。デニム生地やヌメ革のパッチと同様に、この白のプリントもエイジングが楽しめる。
その味わい深い表情は
旧式力織機でしか生まれない

「CLASSIC」シリーズの風合いや色落ちの美しさはヴィンテージさながら。それは決して誇大表現ではありません。そう言い切れる根拠が、生地の産まれる工程にあります。現代で流通する一般的なデニムとヴィンテージデニムの一番の違いは、その生地を織る機械にあります。合理化の進んだ今日では革新織機と呼ばれる高速製織が可能な機械が主流となっていますが、今ほど技術が発達していなかった旧時代のデニムは、旧式力織機と呼ばれる機械で生産されていました。その速度は革新織機には遠く及ばず、織り上げる速度は1/3〜1/5程度で、仕上がりは革新織機が生地表面がフラットなのに対し、旧式力織機で織り上げた生地は表面の凹凸が顕著で不均一。しかし、技術の未熟さゆえの整っていないその風合いこそが、ジーンズらしい抜群の風合いの良さの要です。

岡山県井原市の老舗メーカー、シンヤ株式会社にて生産されている「CLASSIC」シリーズの生地。同社では希少な旧式力織機が今も多数稼働していて、その中の一定台数にMOMOTARO JEANSの生地に合わせた調整がなされ、製織が行われている。
希少で扱いも難しい旧式機、
その伝統を絶やさない
これから新たに増えることのない旧式力織機は、経年による故障やメンテナンスができる技術者の不在が原因で淘汰されつつあります。しかし、MOMOTARO JEANSではこの希少な旧式力織機を確保し、その稼働や修理の方法を熟知した職人を自社で擁することで、ヴィンテージと呼ばれる当時の製法を現代も継承し、プロダクトの品質の追求を続けています。旧式力織機とは、言ってみれば半世紀前のクラシックカーのようなもの。現代で問題なく稼働させるためにも多大な技術力や苦労が必要で、さらにそのパフォーマンスの本領が発揮されるのは、運転するものがどれだけポテンシャルを引き出せるかに掛かっています。MOMOTARO JEANSが構える自社工場で指揮を執りながら自ら職人として製織に従事する内田茂は、その半生をこうした旧式機械と向き合って過ごしてきた人物。ガシャンガシャンと轟音が鳴り続け、会話もままならない工場を出た内田は、自身の生業についてゆっくりと振り返るように語ります。

「一生食っていけるように、手に職を…と考えたとき、自分が育った岡山では身近にあったのが、帆布を製造する会社やったんです。そこに入ったところから、もう50年以上ずっと製織に関わる機械を直すことばっかりしてきました。デニムに携わるようになってからは14年くらい経ったかな。最初にMOMOTARO JEANSの前社長の眞鍋さんから相談されて、兵庫県の西脇からこの豊田(自動織機)のGL-9という機械を何台か探して持って来たのが最初です。これがデニムを織るのに一番適してたから。自分も初めて触れる機械やったけど、そこから緯糸を巻く装置を取り付けたり、糸に不調があったらすぐに止まらにゃいけん思うてブレーキモーターを取り付けたり。かなり改造しました。50年近く経ってる機械ですけど、それで織った生地には一度もクレームが来てないのが僕の自慢なんです。
中古の車なんかでもそうですけど、古い機械って修理のための部品もどんどんなくなっていくんですよ。今は自社で9台のGL-9を動かしてるんですけど、大きな部品が壊れたら鉄工所に頼んでもどうにもならんかったりするんで、部品取り用に2台買ったりして。“トヨタ”じゃなくてまだ“トヨダ”だった時代の機械で、現にトヨタでももう1台も動いてないような状態で彼らもよう動かさんから、年に何遍もトヨタの人たちが観に来ます。今はレピアとかエアジェットとか、超高速で織れる織機があるんじゃけど、それで織ったデニムはフワフワとしとって、力織機で力強く生まんと、MOMOTARO JEANSみたいな生地の凹凸は出ないんですよ。経糸を通して緯糸の目を詰めていく筬(おさ)の上にリードキャップっていう鉄のパーツが付いてるんやけど、それで思いっきり打ち込むからこの凹凸のある表情が出るんです。ちゃんと機械が動いてると一定のリズムがあるんやけど、調子が悪いところがあると混じった音ですぐにわかります。生地の打ち込みの強さも、触った感触でわかります。
古い機械だから誰にも扱い方を教えてもらえないから、自分で勉強して、知識を増やして。そうやって苦労して機械が直ったときの快感だけで、50年やり続けて来てしまいましたね(笑)。放っといて帰れりゃ簡単なんやろうけど、やっぱり逃げたらそこで終わりや思うから」。

PROFILE
内田茂
ジャパンブルー 織り職人
1946年生まれ、岡山県倉敷市林出身。若くして製織と織機に携わり始め、帆布に28年、畳の耳の製織に13年従事したのち、MOMOTARO JEANSを展開するジャパンブルーに参画。今日まで、デニムと旧式力織機を扱い、その機械の扱いにおいて国内でも屈指の技術とノウハウを培って来た。
メイド・イン・ジャパンと
2本線の蜜月

MOMOTARO JEANSの中でも「CLASSIC」シリーズにのみ見られるのが、パンツでは右のバックポケットに、ジャケットでは左袖に配した白の2本線。リブランディング以前は「出陣レーベル」というシリーズで採用されていたこのモチーフはブランド名の由来にもなっているおとぎ話の桃太郎から着想を得たもので、作中では桃太郎一行が鬼退治へと向かう際に掲げたのぼりのデザインがそのルーツです。そこからラインのトーンやバランスをアップデートし、採用し続けているこのモチーフは、MOMOTARO JEANSの歴史と品質を象徴するもの。デニム本来の迫力ある色落ちが楽しめる旧「出陣レーベル」の生地や、「銅丹レーベル」で採用していた革を採用したレザーパッチなど、リブランディング以前から続くディテールを継承し、「CLASSIC」はMOMOTARO JEANSの歴史そのものを象徴するシリーズとなりました。


「CLASSIC」シリーズのプロダクトに入る2本線はシルクスクリーンプリントで表現されていて、すべて手作業によるもの。MOMOTARO JEANSと同じく倉敷は児島に根差し、小規模ながら高品質なプリントワークにファッションブランドからの支持も厚い、有限会社 神原スクリーンの熟練の職人によって、1点ずつ丁寧に仕上げられています。
「MOMOTARO JEANSでは、初期からこの2本線をアイコンとして採用してきました。その頃、僕自身はまだ入社する前の大学生だったんですが、MOMOTARO JEANSに傾倒するきっかけになったのが、この2本線が入った『出陣レーベル』の“0905SP”というモデルでした。分厚い生地に白いラインが、当時妙に気になったのを覚えています。そこから10年以上穿いたそのジーンズはかなり色落ちも進んで、特に財布を入れることが多かった右ポケットのラインは、生地と同じく摩耗でかすれています。今では自分がこのブランドのMDとなって、先のリブランディングにも携わるようになったと思うと感慨深いですね。
リブランディングに際して、この2本線を残すべきなのかどうかという議論も、スタッフみんなと時間をかけて行ってきました。より洗練させていくためには、この2本線すらなくしてしまう必要があるんじゃないかと。でも、今までMOMOTARO JEANSを支えてきてくださった方は、きっとこの2本線を信じてくださった方たちだと思います。だから、それをなくしてしまうことは自分たちの歴史を否定することだと考えて、議論の末にこのアイコンを使い続けることに決めたんです。ただ、主張の強いものを着るのが楽しかった当時から自分も歳を重ねて、より落ち着いて見えて、長く付き合っていけるものに惹かれるようになりました。より多くの人々がずっと愛せるものづくりは、これからのMOMOTARO JEANSが目指しているものでもあったので、バランスを刷新することになったんです。
具体的には、以前は真っ白だった色合いは、「特濃-TOKUNO BLUE」を引き立てながら自然に馴染むグレイッシュなトーンにリカラーして、以前は2.5(上線):1.5(スペース):1.5(下線)だったバランスを、今は2.3(上線):1.3(スペース):1.3(下線)に変更しています。言われないとなかなか気づけないかも知れませんが(笑)、過去の出陣レーベルをお持ちの方は、ぜひ比べてみてください。このバランスにたどり着くまでに、塗料の配合を変えながら何度も製版して、刷り直してを繰り返しました。その結果で、見え掛かりはかなり新鮮になったと思います。
入社したときに、前社長からこの2本線の由来について、“二本”と“日本”を掛けたものだと聞いたことがあります。だから、“ジャパンライン”なんて呼ぶこともあったんだとか。ただ削ぎ落とすことは簡単ですけど、何を残すかを考えていくことは大事だなと改めて感じます。「CLASSIC」シリーズはヴィンテージ感の強さも特徴ですけど、リプロダクトとは全く違うものですし、僕たちはこれからもその品質やものづくりを追求していきます。その先で、この2本線が多くの人にとってより価値のあるものになってくれたら、僕らにとってそれ以上に嬉しいことはないですよ」。

PROFILE
伊吹安広
ジャパンブルー MD
1987年生まれ、兵庫県出身。学生時代に出会った1本のデニムがきっかけでMOMOTARO JEANSを展開するジャパンブルーの門を叩く。デニム好きが高じ、現在ではMOMOTARO JEANS全体の商品企画に携わっている。
Reported by…
今野 壘
編集者
1987年生まれ。インタビューを通し、国内外のデザイナーやアーティストから市井の人々まで、多くの個性と日々向き合っている。熱量の生まれる現場に足を運び、それを世に伝えることが本懐。
IG @ruik0205